借地権の処分について!基礎知識
借地権は建物の所有を目的とする地上権又は賃借権のことで、通常、契約期間は長期に渡ります。
その間に転勤や帰郷などから借地権を売却したいという状況が起こっても不思議ではありません。
借地権の処分について知っておきたい基礎知識をまとめてみました。
本記事のポイント
●借地権の処分がどのようなものかを理解しましょう。
●借地権の処分方法を理解しましょう。
1.借地権の処分
借地の上に建てた建物に住んでいたり、店舗で営業をしたりしていても、長い間に状況が変わってしまい建物を利用する必要が無くなってしまうことがあるかもしれません。
また、利用する予定の無い借地権を相続してしまうこともあるかもしれません。
借地権が設定されている土地を利用しなくなったのであれば、地主に返還するしか無いと考えている方が多いとも聞きますが、実は借地権は売却という手段で処分することができるのです。
しかし、実物不動産である土地や建物の以上に、借地権の売却には注意しなければならない点が多くあります。
実際の売却に当たっては借地権の売買を取り扱う不動産会社などに相談することになるかと思いますが、
借地権の処分に関して基礎的な知識を持っていれば不動産会社や売却の相手先との売買の条件交渉などで役立つことでしょう。
逆に知識が乏しいままですと、交渉の相手側に都合の良いようにされてしまう恐れもあります。
2.借地権についての基礎知識
借地権とは土地や建物のような実物不動産ではなく、建物を所有するために土地を利用することができるという権利のことをいいます。
そのため借地権の処分に関する基礎知識を身に付けるための第一歩として、借地権の特徴や種類などを知っておく必要があります。
(1)借地権とは何か
借地借家法の第2条で借地権のことを「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」と定義しています。
借地借家法が施行される前の旧借地法でも同様の定義がなされていました。
①地上権
地上権は物権のひとつで排他性があり、土地を直接的に支配できる非常に強い権利です。
地上権は借地上の建物建て替えや増改築、地上権の譲渡に当たって地主の承諾を得る必要がありません。
また、地主には登記義務があるため登記することも可能な権利です。
②賃借権
賃借権は債権であり、目的物である土地の利用権は地主の承諾によって認められています。
そのため借地上の建物の建て替えや増改築、賃借権の譲渡に当たって地主の承諾を得る必要があります。
また、地主には登記義務はありません。
地主の協力が得られずに賃借権の登記ができない状況において、借地権の存在を地主以外の第三者に主張するためには借地上の建物の登記を借地権を有する者(借地権者)の名義で行う必要があります。
③借地権の種類
借地権は契約形態などから5種類に分類されます。
・普通借地権(旧借地法の借地権を含む)
契約期間の設定がありますが、更新が認められます。
契約期間を定めないときは最初が30年、合意更新で1回目は20年、以降は10年となります。
契約によってそれ以上の契約期間とすることも認められています。
旧借地法の借地権は構造などによって契約期間等が変わります。
・一般定期借地権
契約期間は50年以上で、更新はありません。
契約終了時に更地にして地主に返還します。
・事業用定期借地権
店舗などの事業用の用途に限定され、契約期間は10年以上50年未満で、更新はありません。
契約終了時に更地にして地主に返還します。
・建物譲渡特約付借地権
契約期間は30年以上で、更新はありません。
契約終了時に建物を相当の対価で地主が買い取る契約になっています。
・一時使用目的の借地権
工事現場の仮設事務所など一時的に土地を借りる権利です。
借地権の売却の難易や借地権の価格は上記の契約形態によっても大きな影響を受けることになりますので、売却する借地権の種類を確認しましょう。
一般的に普通借地権が売却しやすく、定期借地権は売却しにくいといわれます。
一時使用目的の借地権は、その目的からすると売買されることはほとんどないと思われます。
3.借地権の売却価額
借地権を売却によって処分することができれば、いくらかかの金銭が手元に入ることになりますので借地権者にとって良い話であることに違いありません。
そのためには借地権に価格が付くだけの価値が認められるかどうかが重要になります。
(1)借地権の価値
借地権の価値は次のふたつから構成されます。
ひとつは借地借家法や旧借地法によって借地権者の権利が強く保護される結果、長期に渡り独占して土地を利用することができるという借地権者の安定した利益です。
例えば借主の意向に関係無く解約することができる土地の賃貸借には価値はほとんどありません。
もうひとつは借地権を購入しても良いと思える地代であることです。
相場からかけ離れて高い地代を支払う必要がある借地権を購入しようとする方もほとんどいません。
すなわち借り得が大きければ大きいほど借地権の価値は高くなるのです。
(2)借地権の売却価額の相場
基本的に借地権の売却価額の相場はありません。
相場を形成するだけの流通量がなく、借地権は規模、形状などのハード面の個別性だけでなく、
契約期間、地代の額、一時金の授受の有無などソフト面の個別性も強いことがその理由です。
借地権価格の目安のひとつとして土地の価格に財産評価基準書に記載されている借地権割合を乗じて求めるという方法があります。
しかし、借地権は上記のように個別性が強く、借地権割合には借地契約の内容については反映されていないため目安に過ぎないことに注意してください。
(3)借地権価格に影響を与える事項の確認
第三者への借地権の売却による処分を検討する場合には、借地権価格に影響を与える事項について確認をしておく必要があります。
新たに借地権者になる人がどのような契約条件で借地することになるのかが定まらなければ、借地権価格を決めることもできないためです。
また、賃借権の譲渡には地主の承諾が必要ですが、条件が定まらなければ承諾を得ることは難しいでしょう。
借地権価格に影響を与える事項のうち確認すべき主なものを例として挙げると次のとおりです。
①地代、借地期間などの賃貸条件
地主は従前と同一の賃貸条件で譲渡を承諾するというのが原則なのですが、売買のタイミングで地代の引き上げなどを要求してくることがあります。
丁寧に原則論を説明して理解を求めることが大切です。
②更新料の有無及び金額
更新料の支払いは借地権者にとっては大きな負担となりますので、更新料の有無及び金額と更新を迎える時期を確認しておく必要があります。
更新料は更地価格に借地権割合を乗じた得た価格の3~5%程度が多いようです。
③建て替えや増改築の承諾料など
借地権と一緒に借地上の建物も売却する場合、当該建物が老朽化していて、建て替えや増改築が必要な場合には承諾料が発生する可能性があります。
なお、借地上の建物の建て替え、増改築の承諾料は、更地価格の2~5%が相場といわれています。
また、個別の事情によっても増減があるようです。
④譲渡承諾料の負担と水準
地主に支払う譲渡承諾料は借地権の売主負担で良いのか、その金額はいくらになるのかを確認しておく必要があります。
なお、借地権の売主が負担するのが一般的で、譲渡承諾料の相場は借地権価格の10%前後となります。
⑤住宅ローンなどの担保設定の承諾の有無
借地権の購入に当たって、住宅ローンなどを利用して資金調達をする方が多いと考えられます。
このときローンを提供する金融機関等は地主に対して融資承諾書や印鑑証明書など(金融機関によっても異なります。)を要求することになりますが、
地主の義務ではないことから応じてくれないケースもあります。
以上のような事項を確認したり、地主に説明したりするのは借地権に詳しくなければ難しいものです。
また、借地権者と地主とで良好な関係を築けているかどうかも条件等の確認作業に大きな影響を与え、借地権の価格にも影響を与えることになります。
実際の売買では借地権の取扱いに強い不動産会社などに相談されることをお勧めします。
(4)定期借地権の価格
定期借地権には、一般定期借地権、事業用借地権、建物譲渡特約付借地権の3つがあることを上記で説明しましたが、いずれも年数の経過に伴って価値が落ちていく傾向があります。
これは定期借地権には更新が無く、契約期間の満了とともに地主に土地を返還しなければならないためです。
特に一般定期借地権と事業用借地権は更地にして返還するため、最終的な価格は0円となります。
一般定期借地権付きのマンションについて、住宅ローンの制約が厳しい金融機関もありますので注意が必要です。
また、契約期間の残存期間が短くなれば短くなるほど住宅ローンの返済期間も短くなり、利用がしにくくなります。
このような理由から借地権のなかでも定期借地権は売却しにくいといわれています。
(5)借地上の建物が借地権の処分に与える影響
借地権は建物の所有を前提としていますから、借地上には建物があるのが通常だといえます。
したがって借地権を処分する際には借地上の建物と一緒に売却するというケースが多くなります。
建物に価値があれば借地権の価格に加算することもできますが、老朽化が進んでいるため取り壊しや増改築が必要な場合には売却価額が下がる要因となります。
交渉次第の面はありますが、取り壊すことを前提とする場合には建物の解体撤去に要する費用を借地権の売却価額から控除するのが一般的です。
また、地主に支払う建て替え承諾料、増改築の承諾料が買主負担であれば借地権の価格から控除し、
売主負担であれば借地権の売却価額から地主に支払うこととなり、借地権の売主の手元に残る金額は少なくなります。
4.借地権の処分方法
借地権の処分方法には、土地や建物などの実物不動産を売却するケースとは異なる特徴があります。
売却する借地権が賃借権であれば地主の承諾が必要となるため、地主とトラブルが起こると借地権の処分が難しくなりますので、日頃から良好な関係を築いておくことが大切です。
(1)地主による買戻し
借地権の処分を考えるのであれば、まずは地主に借地権を買い戻してもらうことを相談するのがお勧めです。
もし、地主が借地権を買い戻してくれるのであれば、売却のための賃貸条件等の確認や調整が不要となるため地主と借地権者双方の負担が軽くなるというメリットがあります。
また、地主が借地権を買い戻すことで、借地権と借地権の付着した土地の所有権(底地といいます。)がひとつになり、地主は土地の完全所有権を手に入れることができます。
完全所有権となることで、借地権と底地のそれぞれの価値を合計するよりも価値が上がりますので、借地権を第三者に売却するよりも高く買ってもらえる可能性があります。
(2)地主と協力して売却
地主による買い取りが難しいようであれば地主と協力して同時売却や等価交換を提案するのもお勧めです。
同時売却とは、借地権と底地をセットにして同時に売却することです。売却金額は、借地権と底地の権利割合で按分します。
等価交換とは、借地権者の持つ借地権の一部と地主が持つ底地の一部を交換し、借地権者と地主のそれぞれが完全所有権の土地を持つようにすることです。
借地権者は交換によって取得した完全所有権の土地を売却することができるようになります。
状況にもよりますが、これらの方法は第三者に借地権を売却するよりも高値の売却額になることが一般的です。
(3)第三者に売却
地主と協力して売却することも難しいということであれば、第三者に売却して借地権を処分することを検討しましょう。
第三者に売却する際には地主の承諾が必要です。地主に無断で借地権の売却をした場合には、
地主から賃貸借契約の解除を求められ、借地権を失うことになりかねませんので承諾は必ず得るようにしましょう。
(4)地主の譲渡承諾が得られない場合
借地権の譲渡について地主から承諾が得られなかったり、相場と比較して著しく高い譲渡承諾料を要求されたりした場合に取り得る最後の手段として、
裁判所に借地非訟手続きの申立てを行うという方法があります。
借地非訟手続きによって、裁判所から借地権の譲渡について地主の承諾に代わる許可が得られれば借地権の売却が可能となります。
しかし、当該手続きは借地権者と地主の関係が悪化していることを示すことであり、地主とトラブルになっている借地権を購入しようとする人は限られてきますので、
結果として借地権の価格は相当安くなってしまうことが多いです。
5.まとめ
借地権の処分について基礎知識をまとめてみました。
借地権を売却して処分するためには、法律や借地権の取引慣行などについての知識が必要になります。
また、地主に対する借地権の買い戻しや借地権の譲渡承諾を得るための交渉はとても重要なポイントとなります。
借地権の処分についての基礎知識を持った上で、地主や第三者との交渉に当たっては、借地権の売買に強い不動産会社に間に入ってもらうのがお勧めです。